子どもが大泣き・大怒りなど、『混乱している時』のエビデンスベースドな対処法

子どもが大泣きしたり、大声で怒ったり、混乱してしまう場面は、どの家庭でも発生する現実です。

親として「どう対応すればよいのか?」と迷うことも少なくありません。
ここでは、心理学や脳科学の知見をもとに、各理論に基づく対処法を詳しく解説します。

1. まずは「受容と共感」から(Rogers, 1957/Bowlby, 1969)
心理学者カール・ロジャーズは、「カウンセリングマインド」の概念を提唱し、人は自分の感情を否定されると防衛的になり、かえって混乱が深まると述べています。
例えば、「そんなことで泣かないで!」という否定的な言葉は、子どもの心にさらなる不安を与えかねません。
代わりに、「私も似た経験があって、気持ちはよく分かるよ」と共感を示すことで、子どもは安心感を得られます。

また、愛着理論(Bowlby, 1969)においても、信頼できる大人との関わりが情緒の安定に寄与することが示されています。
親が子どもの感情を受け入れ、寄り添う姿勢を示すことで、子どもは自己肯定感を高め、ストレス耐性が向上すると考えられています。

ポイント:「気持ちはOK、行動はNO」
例えば、子どもが「叩きたい」という感情を示した場合、感情自体は否定せず、行動の部分だけを制御するように具体的に伝えるのが効果的です。

2. 落ち着くまでは「傾聴」する(Gordon, 1970/Vygotsky, 1978)
ゴードン・メソッド(Gordon, 1970)では、能動的傾聴、つまり子どもの話を遮らずにじっくり聞くことが、感情の整理に大きく寄与するとされています。
具体的には、子どもが感じた怒りや悲しみを「うん、そうなんだね」「悔しかったんだね」と繰り返し確認しながら受け止める方法です。
このプロセスは、子どもが自分の感情を客観的に認識する手助けとなり、冷静さを取り戻す一因となります。

また、発達心理学者ヴィゴツキー(Vygotsky, 1978)の理論では、他者との対話を通じて思考が発展することが示されており、大人との対話が子どもの情緒発達に不可欠であるとされています。

3. 子どもの脳が落ち着くのを待つ(Siegel & Bryson, 2012/Damasio, 1994)
シーゲルとブライソン(Siegel & Bryson, 2012)の理論によれば、子どもが激しく感情的になっている際、理性を司る前頭前野は十分に機能しておらず、論理的な説明や指導が通じにくい状態です。
脳科学的見地からは、感情が高ぶった状態では、情報処理能力や判断力が低下することが確認されています。

このため、まずは「深呼吸をしよう」「少し休んでみよう」といった、子どもが安心して落ち着くための環境を整えることが大切です。
神経科学者ダマシオ(Damasio, 1994)の研究も、情動と理性の連携が重要であると指摘しており、感情が収まった後に適切なコミュニケーションが行われると、より効果的な学習が可能になります。

4. 感情の言語化を手伝う(Gottman, 1997/Sapir-Whorf仮説, 1956)
心理学者ジョン・ゴットマン(Gottman, 1997)は、子どもが自分の感情に名前をつけることが、感情のコントロールと自己認識の向上につながると主張しています。
たとえば、「ただ怒っている」という抽象的な表現ではなく、「○○なことが悔しかった」「○○と言われたことが悲しかった」といった具体的な感情表現を促すことで、子ども自身が感情の整理をしやすくなります。

また、言語が思考に与える影響については、Sapir-Whorf仮説(1956)が示唆するように、適切な言葉を用いることで、子どもは自分の内面をより明確に理解し、整理することが可能となります。これにより、情緒面での自己制御力が向上するのです。

5. 落ち着いた後、振り返りをする(Baumeister et al., 1998)
バウマイスタら(1998)の研究は、反省の重要性について述べています。
具体的には、子どもが一度冷静になった後に、何がその感情を引き起こしたのか、どの行動が望ましくなかったのかを振り返ることが、大切だと考えられています。

たとえば、子どもが怒りを爆発させた後、親が「次、同じ状況になったときはどうする?」と問いかけ、子ども自身に解決策を考えさせる時間を設けることが重要なのです。

6. 子どもの自己調整力を育てる(Mischel, 1989)
ミシェルの「マシュマロ実験」(Mischel, 1989)は、自己制御能力が子どもの将来的な学業成績や社会性に大きな影響を与えることを明らかにしました。
この実験では、子どもが目の前の誘惑を抑え、後の報酬を待つことができるかどうかが、その後の自己調整能力や成功に直結するという結果が示されています。

親は、子どもが感情的になったときに深呼吸やカウントダウンといった具体的な対処法を提案し、自分で解決策を見つけることをサポートすることで、自己調整力の成長を促すことができます。

まとめ
子どもが混乱している時の対処法は、以下となります。

受容と共感の実践(Rogers, 1957/Bowlby, 1969)
否定ではなく、子どもの感情に寄り添う姿勢を示すことで、安心感と信頼関係を与えます。

能動的傾聴の重要性(Gordon, 1970/Vygotsky, 1978)
子どもの話を遮らず、感情を正しく受け止めることで、気持ちの整理を助けます。

脳の状態に合わせた対応(Siegel & Bryson, 2012/Damasio, 1994)
感情が高ぶった状態では理性が働かないため、まずは落ち着く環境を整えることが必要です。

感情の言語化による自己理解の促進(Gottman, 1997/Sapir-Whorf仮説, 1956)
具体的な言葉を用いることで、子どもは自分の感情を明確に把握しやすくなります。

冷静後の振り返りと自己反省(Baumeister et al., 1998)
自己評価や振り返りのを通じ、次回同じ状況に適切に対処できる力を育みます。

長期的な自己調整力の育成(Mischel, 1989)
自分で解決策を見出す訓練を通して、子どもの将来的な成功に繋がる能力を養います。

これらは、子どもの情緒発達を促し、自己調整力の向上を助けるための効果的な方法です。
親としては、単に一時的な感情の収拾に留まらず、子ども自身が自分の行動や感情を理解し、次回以降の対処法を自ら学べる環境作りが求められます。

今後も、科学的根拠に基づいた子育ての情報を提供していきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です